NEWS

【インタビュー】保護活動と60匹の犬猫との暮らし

左:石原さん 右:アセットコミュニケーションズ 下山

長年にわたり犬猫の保護活動をされている建築家の石原さんに、アセットコミュニケーションズの下山が「保護活動と犬猫との暮らし」についてお伺いしました。

 

ー「ペットと共に暮らす」ということを設計者の観点で考える上で、1番伝えたいこと・実現したいことはなんでしょうか?

猫と人間の両者にとって快適な空間づくりをすることです。

例えば、ブリッジやアクセスを作るといったことは猫の視点からすれば良いことである一方で、上から毛が降ってきたり、毛玉を吐いたり戻したりして汚れてしまうなど、人間にとっては快適性がよくない面もあります。

猫の快適性や楽しさを追い求めて人間の快適性を損なうのはどうなのか、と思います。

この辺をうまく整理し、両者の視点から1番良い空間を作っていくことが重要だと感じています。

 

ー石原さんは、ペットの保護活動も行われていますよね。現在飼ってらっしゃるペットの数と種類を教えてください。

今は猫を6匹飼っています。

保護活動で家にいた猫を受け入れた形で飼っている「サバ」や、雑種や白黒で譲渡会で引き取り手が見つからなかった4匹の猫たち、数週間前にミルクボランティアとして受け入れた生後3週間ほどの白色の猫と暮らしています。

 

ー結婚を機にペットを飼い始めたと伺いましたが、これまでどれくらいのペットが石原さんと暮らしてきたのでしょうか?

数えたことがないのでおそらくですが、延べ60匹くらいではないでしょうか。

そのうち犬は6~7頭です。ミルクボランティアを中心に行っている関係で、やはり猫が多くなっていますね。

 

ー20年以上にわたり、数多くのペットと暮らしてきた経験をベースにペットとどう共生していくかを考えてこられたんですね。

そうですね。ペットの種類や数もそうですが、それぞれ性格も違うため、一緒に暮らす中で必要に迫られて考えてきた部分です。

ただ可愛いとか面白いという以上に、実は生活環境を維持することがかなり大変でした。

まず整えるべきはペットと共に暮らすための生活環境で、すごく重要なことではないかと身にしみて感じています。

 

ー家族構成について教えてください。

自分と妻、娘2人の四人家族です。

娘たちは生まれた時から常にペットがいる生活で、小さい時からミルクをあげたりしていて猫が大好きです。

ボランティア団体のカメラマンもよく家にきてビデオを撮っていました。

その成長の過程が記録として蓄積されていたこともあり、BSのテレビ番組に取材されたこともあります。

 

ーお子さんと様々なペットの成長の過程を記録されていて、取材につながったのかと思いますが、番組ではどのように紹介されていたのでしょうか?

保護猫の小さい時からの成長と、どういったところに貰われていくかのプロセスを含めて紹介いただきました。

ペットとの出会いから、新しい里親が決まっていくまでの流れ、新しい家でなじんでいく様子などを紹介することで、命の大切さを伝える視点が多かったように思います。

 

ー義理のお母さんも保護猫活動をされていたんですよね。

そうですね、かなり古くから保護活動をしています。

妻や義理の弟は昔からペットを保護して家で飼っていいかと聞いた時、それを拒否されたことはないそうです。

また義理の母もペットへの愛情が深く、合唱団をつくって収益金を里親などのボランティア団体に寄付を行ったりしていました。

 

ー義理のお母さんの保護活動の歴史を含めると、40年近くペットと暮らしてきたご家族ということですね。

ペットとの暮らしを破綻させず、うまく調和しながら”ペットと共に暮らす”といった視点をもった建築家は他にいないのではないかと思います。

 

ー保護猫や犬を預かるきっかけは何だったのでしょうか?

ペットを初めて飼ったのは結婚の時です。

結婚のタイミングで妻が飼っていたメインクーンと、義理の母の里親ボランティアから生後数カ月の子猫2匹をもらい受けました。

里親ボランティアは、東日本大震災がおきた時に始めました。被災地の保護猫を里親が見つかるまでの一時期預かる活動で、それ以来、常に数匹の預かり犬猫を受け入れています。

 

犬や猫と暮らす人がとても増えていますが、実際のペットとの暮らしはどうですか?

当たり前のことですが、癒しが得られます。

日常的な癒しもありますが、心労が重なったときに、やはりペットがいてくれてよかったと思う場面がありますね。

結婚してからペットを飼ったのでよりそう思うのですが、ペットは一緒に住む人とのクッションになっていて、人と人との関係をより立体的で豊かなものにしてくれると感じています。

ペットのお約束の反応や、予想に反する面白い反応を家族(妻や子供)と一緒に見ることで、驚いたり楽しんだりする場面が増えます。

極端な言い方をすれば家庭内の社会性が増すと言えますね。

また、命を預かるということに深い意味を感じています。

ペットが命の危険に晒されることもありますし、10〜20年のスパンで亡くなっていく存在なので、家の中で家族がなくなるという経験をすることになります。

「命を預かる、育てて一緒に暮らして楽しい時間を共有し、最期は看取る」といったサイクルを幾度となく経験することになって、命の有限性をとても身近に感じることになります。

腕の中でため息をするように息を引き取ったり、さっきまでそこで休んでいると思ったら亡くなっていたり・・・

自然な形で生まれて死んでいく、生死を身近なものとして捉えることができるのも、実はすごく大事なことだと感じています。

 

保護猫・犬の具体的な活動内容を教えてください。

保護活動には、直接里親になるケースと、里親が見つかるまで一時的に預かるケースがあり、主に後者を行っています。

生後数日から数週間の小猫が保健所に持ち込まれた場合には、夜も含めて数時間おきにミルクをあげる必要があり、内容的にも体力的にもシビアな飼育を一定期間続けることになります。

妻はこのミルクボランティアの受け入れもしていて、保健所から直接連絡が来ることがあります。

貰われるまでの間は、ボランティア団体が定期的に開催する譲渡会に参加して里親を探します。

譲渡会でマッチングが成立すると、まず里親候補の方にトライアルで数日間受け入れてもらいます。

そしてトライアル期間がうまくいくと、正式に里親が決定し譲渡が行われます。

譲渡会では警戒してじっと黙り込んでしまう猫が多いのですが、そんな中でも、魅力的な猫や楽しい反応をする猫は、来られた方に譲渡会の初見でも見抜かれて貰われていくのは、本当に不思議だなと思っています。

もちろん老猫や老犬を預かる場合は、看取るところまで一緒に暮らすケースもあります。

 

ー建築家として”ペットと共に暮らす”視点をどのように今回の設計プランに取り込んでいますか?

ペットを家族の一員として大切に育てていける家ということを大前提として、まず命の危険に関わる要因をなくすことが重要です。

例えばトイレが廊下にある場合、玄関との間に建具がないと外に飛び出してしまうことがあります。

家からの飛び出し防止策や子猫の場合はお風呂への対策、ドアの開閉で挟まれないようにするなど、ひとつひとつ丁寧に見ていく必要があります。

その上で、ペットからのストレス信号が出ないようなプランが大切です。

トイレの数や爪研ぎの場所の用意、上下の運動ができること、高いところや身の安全を確保できるところでゆったりと休める場所があることは、基本になります。

犬の場合はある程度動けるスペースが必要ですね。

また、躾がうまくいかなかった場合を想定した床や壁の仕上げや耐久性の高いものにしておく必要があります。

ここはベースとして十分に考えておいて欲しいところです。

もうひとつ大切なことは、ペットと共に暮らす人間も快適かどうかです。

掃除がしやすいこと、トイレの匂いへの対策や触ってはいけないものを置かなくて良いようにするなど、この辺りを整備することでペットにも人間にも住みやすい空間になると思っています。

 

<石原弘明様>

一級建築士 工学博士(地域施設計画)
早稲田大学大学院修士課程、東京大学大学院博士課程修了。
内藤廣建築設計事務所を経て1998年石原設計所を設立。
注文住宅、大手賃貸系不動産の賃貸住宅商品開発等の他、保育園やクリニック等、暮らしに関わる様々な種類の設計に関わる。
東日本の震災をきっかけにペットの保護団体に所属し、里親が決まるまでの犬猫の一時預かりを行っている。
60匹以上の犬猫と暮らす中で、ペットと共に暮らす家の在り方を体験を通して考え、設計に活かしている。