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未来をつなぐ不動産サービス 第1回「体験価値としての不動産サービス」のビジョン~星野リゾートに学ぶ“体験”設計の重要性~

――不動産業界を取り巻く環境変化と、星野リゾートに学ぶ“体験”設計の重要性――

1. 不動産業界を取り巻く環境変化

不動産業界は、これまで「物件(ハード)」そのものや「施設を維持管理すること」を中心に発展してきました。しかし昨今、以下のような社会・経済・技術的変化が同時多発的に起きており、従来の事業モデルを大きく変革する必要性が高まっています。

未来をつなぐ不動産サービスレポートは、今回の第1回を皮切りに、下記の流れで不動産業界の未来と「X Concierge(エックス・コンシェルジュ)」サービスの詳細について掘り下げていきます。

第1回:「体験価値としての不動産サービス」のビジョン
┗ ※今回の内容

第2回:上記ビジョンに基づいた、弊社サービス「X Concierge」の取り組み

第3回:「X Concierge」のサービス詳細・事例紹介

第4回:専門家対談

第5回:「X Concierge」におけるAIサービスの可能性

 

第2回以降では、弊社が提案するデジタルコンシェルジュサービス「X Concierge」が、どのようにハード面とソフト面をつなぎ、どんな付加価値を創出しているのかを具体的な事例を交えてご紹介します。

 

第1回:「体験価値としての不動産サービス」のビジョン

 

日本の不動産業界は大きな変革期を迎えています。人口減少に伴い住宅需要が伸び悩み、空き家が増加しています。居住目的のない空き家は1998年から2018年で約1.9倍に増え、2030年には470万戸に達する見込みです​。市場規模の縮小や需要構造の変化が進む中、不動産業界は従来のビジネスモデルのままでは立ち行かなくなる可能性があります。

また、デジタル技術の進展も不動産ビジネスを変えつつあります。電子契約やオンライン内覧など不動産取引のDX(デジタルトランスフォーメーション)は加速しつつあるものの、依然として電話やFAX、紙の図面による対応が根強く、業界全体で一気にデジタル化が進んだとは言い難い状況です​。しかし、大手各社を中心にDXへの取り組みが本格化しており、この流れに乗り遅れた企業は将来的に大きな遅れを取るとも指摘されています​。

こうした市場縮小とデジタル化の波の中で注目されるのが、「体験価値」としての不動産の必要性です。近年、消費者はモノそのものよりも、それによって得られる体験に価値を感じる傾向が強まっています。サービス購入による体験に価値を見出す「コト消費」という潮流があり、様々な産業がこの「コト消費」の取り込みに注力しています​。

不動産業界も例外ではなく、単に「物理的な空間を提供する」だけでなく「その空間でどのような体験が得られるか」を重視する方向へシフトしつつあります。言い換えれば、不動産そのものの価値ではなく、不動産を通じて得られる暮らしや働き方の質、利便性、感動といった体験価値が重要になってきているのです。

このような文脈で、本レポートではアセットコミュニケーションズ代表取締役の近藤統嗣氏へのインタビューを通じて、不動産業界の未来像を探ります。近藤氏は不動産業のデジタル化を推進し、新サービス「X Concierge(エックス・コンシェルジュ)」を手掛ける人物です。業界の現状と展望から、「不動産3.0」とも呼ぶべき次世代の不動産ビジネス(デジタル技術と体験価値提供が融合した新たなステージ)の姿を読み解いていきます。

 

不動産業界の現状と課題(空間提供から体験提供へ)

近藤氏: 現在の不動産業界では、多くの企業がまだ「部屋を貸せばそれで終わり」という発想から抜け出せていないように思います。つまり、物理的な空間そのものを提供するだけで付加価値がなく、価格勝負に陥ってしまっているケースが多いんです。賃貸住宅でもオフィスでも、「この箱を貸します、あとはご自由にどうぞ」では差別化できません。人口が減り競争が激しくなる中、それでは厳しいですよね。

従来の延長線上ではどうしても不動産はコモディティ化(画一化)してしまい、価格以外で勝負できなくなってしまいます。近藤氏は「不動産業界も発想を転換し、空間そのものではなくその空間で得られる体験価値を提供していく必要がある」と強調します。物件のハード面の魅力だけでなく、ソフト面でどんなサービスや快適さを提供できるかが鍵だというのです。例えばオフィスであれば、単にデスクを並べるのではなく、人と人が交流しイノベーションが生まれる場をどう設計するか。住宅であれば、住む人のライフスタイルを豊かにするコミュニティやサービスを付加できないか——そうした視点が求められています。

写真:近藤統嗣氏

星野リゾートの事例:体験価値で価格競争から脱却

星野リゾート「星のや軽井沢」の水波の宿エリア。水辺に点在するヴィラ客室が非日常的な体験を演出する宿泊施設の一例。従来の旅館とは一線を画す空間デザインと地域の魅力を活かした滞在価値で知られる。

近藤氏: 不動産の体験価値提供のお手本として、ホテル業界の星野リゾートがよく引き合いに出されます。星野リゾートでは単に宿泊場所を提供するのではなく、そこでしか得られない独自の体験を提供していますよね。​

freeworksllc.co.jp

例えば地域の文化や自然を取り入れた演出やアクティビティ、行き届いたおもてなしによって、お客様に「ここで過ごす時間そのもの」の価値を感じてもらう工夫をしています。他では味わえない体験を最大限に高めているからこそ、単純な料金の安さで勝負せずとも高い顧客満足を実現し、価格競争から脱却できているわけです​。

星野リゾートは「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」として、商品・サービス・価格など5要素のうち**「経験価値」を最重視**する戦略を取っています​。

それによって他社と比較できない独自性を生み出し、「高付加価値路線」で成功している典型例です。「体験価値としての不動産」は、まさに星野リゾートのようにユーザーに体験を提供することで物件の付加価値を高めるアプローチと言えます。

体験価値としての不動産とは?

インタビュアー: 改めて、「体験価値としての不動産」とはどのようなものでしょうか?従来の不動産ビジネスとの違いは何ですか?

近藤氏: 平たく言えば、「不動産をサービス業的に捉える」ということだと思います。今までは不動産そのもの、つまりハコや立地といったモノの価値が中心でした。しかし、これからはその不動産を通じてお客様にどんなコトを提供できるかが大事になります。例えば入居者にとって便利で快適な暮らしを実現するサービスや、オフィス利用者に創造性やコラボレーションを促す環境づくりなどですね。

具体的には、不動産オーナーや管理会社がテナントや利用者に対して付帯サービスを充実させたり、コミュニティ形成を支援したりといった取り組みが考えられます。従来は入居者が勝手にやっていたことも、こちらから提案して提供するわけです。たとえばマンションにコンシェルジュサービスを付けてクリーニングや宅配受け取りを代行するとか、オフィスビルで入居企業向けに異業種交流イベントを開催するとか、そういう「場の価値」を創出するイメージですね。「不動産3.0」とは、デジタル技術もうまく活用しながら、そうした体験価値を提供できる不動産の在り方だと私は考えています。

 

アナリスト補足: 近藤氏の言う“不動産3.0”を整理すると、不動産1.0=物件そのものの価値(場所・ハードの価値)、不動産2.0=IT化による効率化(物件情報ポータルや電子契約など取引プロセスの革新)、不動産3.0=顧客体験価値の提供(デジタルも駆使して空間での体験そのものをデザイン・提供)と位置付けられます。近藤氏は、この不動産3.0時代には「不動産×サービス×テクノロジー」の融合が不可欠であると指摘しているのです。事実、同氏の企業ビジョンでも「AIやIoTを活用しつつ、省人化と利用者体験価値の提供を図ることが求められる」と述べられており​assetcom.jp、不動産を取り巻くプレイヤー全員にとって価値のある体験を創出することが目標に掲げられています。

 

X Conciergeが目指す未来

「Future of Buildings – AI Concierge for your Facility Management」と題したコンセプト図。ビルの管理業務をAIコンシェルジュによってスマート化し、オーナーから入居者まであらゆる関係者に価値をもたらす未来像を表現している(PR Times掲載画像より【33】)。

インタビュアー: 近藤さんの会社が提供している「X Concierge」とはどんなサービスなのでしょうか?それは不動産3.0時代にどのような役割を果たすとお考えですか?

近藤氏: 「X Concierge(エックス・コンシェルジュ)」は一言でいうとAIを活用した建物管理のトータルサポートサービスです。ビルやマンションの管理業務をもっとスマートにするために開発しました​。

prtimes.jp

具体的には、建物のオーナーさん、プロパティマネージャー(PM)、ビルマネージャー(BM)、実際に現場で作業する業者さん、そして入居者や利用者といった全ての関係者をデジタルで繋ぐプラットフォームになっています​。

これによって情報や依頼を一元化し、必要な作業を迅速かつ効率的に回せるようにしているんです。

例えば、入居者の方から「水漏れが発生した」「エアコンが故障した」という連絡があれば、従来は管理会社が業者を探して…と時間がかかりましたが、X Conciergeでは蓄積されたデータや提携ネットワークを活用してすぐに適切な業者を手配できます。私は将来的に、「鍵を無くした」「水道が詰まった」など生活の困りごとに、連絡してからすぐ当日中に対応できるサービスを実現したいと考えているんです​。今はなかなか難しいですが、我々の定期清掃の管理ノウハウやAI技術を応用して、それを可能にしていきたい。

要するに、X Conciergeが目指すのは次世代のスマートビルの実現です​。建物に関わるすべての人にとって価値のある体験を提供しながら、AI×施設管理の総合力で建物全体の価値向上を支援する​──そんなサービスを目指しています。

今後はさらに機能を拡充し、どんな建物でも「困った時はX Conciergeにお任せ」と言っていただけるような存在に育てていきたいですね。

 

まとめ

近藤統嗣氏のインタビューから浮かび上がるのは、「体験価値」を軸とした不動産業界の未来像です。不動産業のデジタル化(DX)は手段であり、それによって実現すべきゴールの一つが顧客への体験価値提供の最大化だと言えます。空間にテクノロジーとサービスを融合し、ユーザーに新たな付加価値をもたらす不動産3.0の発想は、今後の業界において競争力の源泉となるでしょう。実際、大手デベロッパー各社も「リアルとデジタルを組み合わせ、顧客一人ひとりのニーズに合った体験価値を提供する」戦略を打ち出しており​、街づくりや不動産サービスの在り方を大きく転換しようとしています。

弊社の提供するX Conciergeは、そうした流れの先端を行く取り組みと言えます。建物管理や生活支援にAIとネットワークを活用する同サービスは、物件オーナーから入居者まで全方位にメリットを生み出し、不動産の価値を底上げする可能性を秘めています。近藤氏が描くように、入居者の困りごとに即座に対応できる仕組みが普及すれば、従来は不便さや不満として捉えられていた部分が新たなサービス価値へと転換されるでしょう。これは空間提供ビジネスから体験提供ビジネスへの転換点であり、不動産業のサービス化・顧客志向化を象徴するものです。

最後に、不動産業界の未来への提言として強調したいのは、発想とビジネスモデルのアップデートです。縮小する市場だからこそ、単価あたりの価値を高める工夫が必要です。そのためにはデジタル技術の導入はもちろん、異業種のサービスノウハウを取り入れる柔軟性も求められます。幸いにも日本には星野リゾートのような成功事例があり、また近藤氏のように新しいサービスを創出する起業家も現れています。業界全体が「ハード(物件)提供」から「ハード+ソフト(サービス)提供」へと発想転換し、顧客体験を中心に据えた価値創造に取り組むことが、不動産業界が未来にわたり成長・発展していくカギとなるでしょう。そして、不動産3.0時代をリードする企業こそが、次の10年で大きな競争優位を手にすると言っても過言ではありません。現場のプレイヤー一人ひとりがこの潮流を捉え、行動を起こすことが求められているのです。

参考文献・出典: 不動産各社統合報告書 等​